Yama_Blog
デザイン学科絵画コースを題材としたブログです。山口先生の考え方やスクーリングの様子などを掲載しています。
デッサンを学ぶ目的
建築、デザイン、美術…分野は異なりますが、いずれも「造形」※を扱う、「造形」で表現するという点では共通しています。
※「造形」色彩、形態、質感およびそれらの構成、バランス
対象を正確に再現して描く…ということから「デッサン」は絵画を学ぶための学習として捉えられがちです。
花を正確に描くことができるようになったとしても、例えばグラフィックデザインにおけるレイアウトや、建築で建物を構想することには結びつかない、そのように思う方も多いかも知れません。また絵画においても「私が描きたいのは抽象画だからデッサンは関係ない」と考えている人もいるかも知れません。
ここでは、デッサンを学ぶことが造形に関わるあらゆる学習の基礎になるということを説明したいと思いますが、その前提として、デッサンとはどのような活動であるのかということを説明していきます。
「正確に描くのは難しい」と考えている人は多いと思います。絵を学んだ経験のない人からすると、熟練者の作品は「どうしてあんなに正確に描けるのだろうか」と不思議に思うことでしょう。
経験のない人は「正確に描ける」というところに注目すると思いますが、実はそれ以前の問題として「正確に観察する」ということが重要になります。「観察する」という心の動きは傍から見ていてもわかりませんので、気づかないのも無理はありません。
当たり前のことですが、「何を」「どのように」描こうかという構想が頭の中になければ、脳は腕に対してどのように動くべきか指示を出すことはできません。その頭の中の構想は、何もせずに頭の中に浮かんでくるわけではありません。当たり前のことですが「観察」し対象の在り方を理解することによって構想が得られるのです。ですからデッサンをするためには「描く」力だけでなく、同等あるいはそれ以上に「観察」する力が必要となるのです。
「絵を描く才能」ということが言われます。「私は才能がないからうまく描けない…」ということもよく耳にします。これに対し、私は次にように言います。「もしあなたが枝と指と鉛筆のカタチを見分けることができないのなら絵を描く才能はありません、自分の掌を見て全くムラのない肌色一色にしか見えないとしたら絵を描く才能はありません」。つまり絵を描く才能は誰にでもあるということです。
では、なぜ誰もが上手に描ける人とそうでない人がいるのでしょうか。カタチや色彩を見分ける力は誰にもあるのですが、正確に観察するためにその力をどのように使うかということを学ぶことが必要です。「見る」ことと「観察する」ことは同じではありません。「見る」とはただ眼に映ったモノを意識することです。しかし観察とはもっと能動的な心の働きを必要とします。今眼に映っているものと、他のものとの対比や関係で判断していくことです。全体の中での在り方を判断していくことです。正確に判断するために、同時に複数のモノを、時に直接目に見えないモノ(伏線など)を想定して見ていくこと、それが観察です。
また観察したことを描くための画材の使い方や身体のコントロールの仕方も学ばなければなりません。しかしこれらも知識と経験で修得できるものですから、「才能」とは関係ありません。
造形に限らず、音楽でも文学でもあらゆる表現分野に共通することがあります。
ひとつの要素だけで表現力が生まれるということはないのです。他の様々な要素と関係しながら全体としての表現力が生まれていきます。
登場するもの、そのどれもが主役のように振る舞っては雑然としてしまいます。登場人物の役割、主従関係、それに応じた存在感の対比がしっかりと決まっていなければなりません。クライマックスを盛り上げるには他のところにクライマックス以上に盛り上がるところを作らない方が良いでしょう。控えさせるところはしっかりと控えさせる必要があります。まだまだいろいろ例を挙げることはできますが、一言で言うなら「観察する」ということは、個々の要素だけでなく、要素同士の「関係」を探る、ということなのです。
さて、「観察する」力が大切ということを踏まえ、デッサンが絵画以外の造形分野においても基礎となるということについて述べていきます。料理人は自らの舌、味覚を鍛えるために積極的にいろんなものを味わう、という話を聞いたことがあります。当たり前ですが、料理人に「美味しい」ということを味わう力がなければ美味しい料理をつくることができるはずがありません。繊細な味付けをするためには繊細に味を区別する味覚が必要です。
これを造形分野に当てはめて考えてみましょう。色彩やカタチで表現するのに、自身の色彩やカタチを味わう力が貧困であってはなりません。鍛えていかなければなりません。それがデッサンです。先ず、造形を味わう力を鍛える、そのひとつの結果として対象を正確に描けるようになる。だから別の結果としてはより味わい深いカタチや色彩によってポスターの配色やレイアウトをしたり、建築物の形態や空間を構想できるようになるのです。
「観察力」が大切なのなら観察の練習をすれば良い、描く必要はない…と思われるでしょうか。こんな経験はないでしょうか。頭の中ではわかったつもりになっていた、理解したつもりでいた。しかしいざ人に説明しようとしたらうまく説明できなかった、実はよくわかっていなかったということに気づいた。
言葉による説明に限らず、造形表現も頭の中で考えるだけでなく、それを描きながら考えることが大切です。描き出し、客観的に見つめることで、足りないことがわかったり、整理できたりします。また描いたものが刺激となり新しいアイデアが生まれ発展していくこともあります。観察と表現はセットになると効果的なのです。
グラフィックデザイン、建築の分野でも作品制作にアイデアスケッチは欠かせません。また共同作業が多い中、考えていることを他人に伝えるために絵にして見せなければならないことも少なくないでしょう。デッサンによって、頭の中の構想をカタチにする技術を身につけることはこうした場面でも効果を発揮するのです。
勿論、観察だけでも効果はあります。生活いろいろな場面でちょっと気になるもの、興味を感じるものに出会ったりします。そんな時、ただ漠然と見るだけでなく、デッサンした時に気持ち、「観察」するという気持で見てみましょう。心を使って能動的に捉えたものはそれだけ心に深く刻まれます。そうやって心の中にいろんな造形の引き出しを持っていると、作品を構想する時にもより発想が豊かに効率的になってきます。
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